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第1部 三章【護りのミサト！】その7 第二話 ダニの根性
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2025-12-16 18:30:0088.
第二話 ダニの根性 ユキから引き継いだカオリの手牌は苦しかった。 カオリ手牌 七八八②②②④⑥６８東南南 ドラ東 （頑張っても南のみのリャンシャンテンか。だけどここは最低でも満貫ツモが必要……） ツモ八 （七萬を活かしてタンヤオ移行とかしてる場合じゃない。早くリーチまで持っていかないと差し込みが行われて終わる。どうやっても不利なんだ。それなら） 打七 （通れ！） 七萬にロンの声はかからない。死を覚悟した一打でイーシャンテンに漕ぎ着けるがまだ打点は足らない。 「チッ！ 気合い入った牌切るやないか」 「ここで一歩でも退いたらもう負けなんですから。当然の選択をしたまでです」 そう言うカオリの手にはあっという間に汗が滲んでいた。それもそのはず。七萬を掴んで捨てる。その作業に何人もの人生が乗っているのだ。それはとてつもないエネルギーを使わないと切れない一打だったはずだ。そこまでして進めた愚形2箇所残りのイーシャンテンにユキは目に涙を溜めながら見守った。 ミサトも神の存在を信じたこともない無神論者であるくせに何かに対して祈っていた。それは麻雀の神であるのか、それともカオリにであるのか。 いや、それは運命に対してだった。自分たちの友情に対して。これまでの青春に対して。自らの人生に対して。 （絶対に乗り越えられる！ お願い！ 勝って！）と願わずにはいられなかった。こんな所で終われない！ すると次巡…… カオリ手牌 八八八②②②④⑥６８東南南 赤５ツモ （うぉ！） 喉から手が出るほど欲しいと思っていた赤ツモ！ もう８索に用はない。この牌も危険牌だが。 打８ （通れ！） パシン 何人もの運命を乗せた一打のなんと重いこと。打牌音が響く。強打したつもりはない。ただ、勢いよく振り下ろさないと打ち出せないのだ。緊張で腕の振りをコントロールできないくらいカオリの筋肉は強張っていた。 はあっ！ はあっ！ 「おうおう、頑張るやんかー」 「見上げた根性だ。極道に向いてるぜ」 「は、極道？ 笑わせないで下さいよ。極める道とか。厨二病なんですか？ ただの弱虫チンピラ集団が何を極められるってわけ。あなた達はただの怠け者。何もできない。真剣に仕事をしようともしない。『普通の人』になれなかった落ちこぼれよ！ 今だって、正々堂々の真剣勝負すらできない。3人がかりで1人からむしろうっていうダニの根性。それの何が極める道なわけ」 「……この！」 「あなた達の通ってる道は汚水まみれの下水道よ。誰もあなた達に近寄りたがらないでしょ。それは臭くて汚いからよ！」 親友の危機にカオリは怒っていた。いつものカオリからは考えられないくらい凶暴性のある言葉が出ていた。これにはミサトも驚いた。 「……のアマァ！ 言わせておけば!!」 「まぁ待て」 「呉の兄貴」 「なにを吠えようともうあと2局だ、終わったあとで後悔させてやろう。な、安い挑発には乗るな」 「ふ、挑発のつもりではないけどね。私、ヤクザって大嫌いなの。ほんっとーに許せなくて、あなたのような存在が。いい機会だから思ってたこと言ってみただけよ…… リーチ！」 打東 そう言うとカオリはドラの東をドン！ と横に曲げてきた。とんでもない危険牌である。しかし通る……！ 浜田手牌 二二三三四四⑦⑨３４５東東 （くっ……。⑨筒切りで⑦筒と東待ちのリーチにしてたらあがってた。まさかドラを押されるとは！） 呉たちは浜田に差し込もうにも浜田の待ちである⑧筒は持ってなかった。そして2巡後…。 「ツモ!!」 カオリ手牌 八八八②②②④赤⑤⑥赤５６南南 ４ツモ 「2000.4000の2枚！」 「カオリーーー!!」 「すごい！ すごい!!」 「まだよ、まだ全然不利の状態…… でも。オーラスも頑張るわ！」
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86.第七話 最終戦 全員そこそこ打てるベテランだったのが良くなかった。誰一人長考で止まったりすることなく即断即決で選択する。あまりにも早いテンポだ。 財前カオリの到着を待たずに最後の半荘が始まった。 すでに1勝している安岡と浜田は躊躇なく呉への援護射撃することに徹していたし、呉自身の調子も上がってきていてテンパイ速度が早かった。「リーチ！」「まだ3巡目よ……！」 もう何回目の序盤リーチだろう。そして、それに対して危険牌から捨てる子分たち。それはそうだ、兄貴分を差し置いて2勝なんてしたら何を言われるかわかったもんじゃない。財布は別々であるからこそ、この最終戦はなるべく呉にトップを取らせないといけなかった。「ロン！」 そんな展開が続いて。さらに安岡と浜田も少しずつ和了りを出してきて気がつけば圧倒的な点差だった。「ロン。2000」 南1局のユキの親番もあっという間に蹴られて絶望が近づいてきた。ここらで満貫級をアガれなければほぼ地獄に落ちる。そんな局面。（頑張って！ ユキ！）（飯田さん。お願いします！）（飯田さん、どうか！ どうか!!） 真後ろにいる（斜め後ろだと対戦相手の手牌が覗けてしまうため真後ろで応援するのがマナー）ミサトや斉田夫妻は祈るように念を送った。それくらいしかやれることは無かったから。だけど……「リーチ!!」「ロン。1300」 渾身のユキのリーチは安岡のダマテン1300に放銃となりリーチ不成立。
